年末年始が近づいてきた頃の話です。
イズミちゃんに、年末年始の商品発注をお願いすることになりました。
去年の実績を見ながら、
「去年100個使ったから、今年も100個くらいかな」
と考える。
もちろん、それでいい商品もあります。
でも僕はイズミちゃんに、
「いきなり商品の数を決めるんじゃなくて、まず今年の年末年始にいくら売れると思うか考えてみたら?」
と話しました。
これが、イズミちゃんに「売上予測」を教えるきっかけでした。
去年100個売れたから、今年も100個?
去年100万円売れて、ある商品を100個使ったとします。
今年も100万円くらいの売上なら、今年も100個という考え方でいいかもしれません。
でも、今年は200万円売れそうだったら?
さすがに100個では足りなさそうですよね。
極端な話、
店を改装して客席が倍になった。
近くの競合店が撤退した。
そんなことがあれば、去年と今年をそのまま比べる方がおかしい。
そこまで大きな変化がなくても同じです。
今年一年、ずっと去年より売上が良かったとしたら、年末年始だけ突然、
「去年と同じくらいでしょう」
と考えるのも変ですよね。
だから、去年の発注数を見る前に、
「そもそも今年はいくら売れると思う?」
から考えてみよう、という話をしました。
まず「今年はいくら売れる?」から考えてみる
じゃあ、今年はいくら売れるのか。
もちろん未来のことなので、正確には分かりません。
だから予測します。
まずやってみたのが、今年の売上と去年の売上を比較すること。
毎月の売上を並べて、
「1月は前年比何%?」
「2月は?」
「3月は?」
と見ていく。
一年を通して去年より売上が伸びているなら、その傾向は年末年始の売上予測にも使えそうです。
ただ、ここで大事なのは、
前年比を計算して終わりにしないこと。
だと思っています。
前年比120%と150%。この違いはなぜ?
たとえば去年、
平日は50万円。
土日は100万円。
だったとします。
今年は、
平日60万円。
土日150万円。
だった。
前年比にすると、
平日120%、土日150%。
ここまでは計算すれば出せます。
でも、僕が考えてほしいのはここからです。
「なんで平日は120%なのに、土日は150%なんだろう?」
今年は調子がいい。
前年比もいい。
それで終わるのではなく、
「なぜ?」
を考えてみる。
ここから数字を見る意味が出てくると思っています。
売上を「客数×客単価」に分解して考える
イズミちゃんには、この話を何度もしました。
売上 = 客数 × 客単価
です。
最初はこの考え方自体が、まだ曖昧でした。
実はマナブ君も同じでした。
マナブ君は他の飲食店から転職してきた子ですが、それでもこういう数字の見方は知りませんでした。
飲食店で働いていると毎日の売上は見るけれど、
「その売上がどうやってできたのか」
まで教えてもらう機会って、意外と少ないのかもしれません。
だから、週末の売上が前年比150%だったら、まず分けて考えてみる。
客数が増えたのか?
客単価が上がったのか?
それとも両方なのか?
「売上150%」という一つの数字だけでは分からなかったことが、少しずつ見えてきます。
客数が増えたのはなぜ?
仮に、客数が増えていたとします。
でも、
「客数が増えた」
で終わりではありません。
なんで増えたんだろう?
店の前を通る人自体が増えたのかもしれない。
その中から、うちの店に入ってくれる人の割合が増えたのかもしれない。
逆に、店まで来てくれたけれど、
「待ち時間が長いな」
と帰ってしまった人もいるかもしれません。
数字に出てくるのは、最終的な客数です。
でも、その数字ができるまでにはいろんな理由があります。
客単価が上がったのはなぜ?
客単価も同じです。
ざっくり考えれば、
客単価 = 一品単価 × 注文点数
です。
客単価が上がったのなら、一品あたりの単価が上がったのかもしれない。
あるいは、一人のお客さんが注文する点数が増えたのかもしれない。
たとえば平日は単価の低いランチがよく出る。
週末は家族連れが多く、盛り合わせがよく出る。
それなら同じ「売上が伸びた」でも、平日と週末で理由が違うかもしれません。
同じ客単価という数字でも、その中身は違う。
ここまで考えると、数字を見るのが少し面白くなってきます。
数字を見る前に、まず自分なりの仮説を立てる
僕が二人に教えたかったのは、実はここです。
数字をいっぱい並べて、
「何か分からないかな?」
と眺める。
それよりも先に、
自分なりに仮説を立ててみる。
「週末が150%なのは、家族連れが増えたからじゃない?」
「盛り合わせが増えて、一品単価が上がってるんじゃない?」
「平日はランチが多いから120%くらいなのかな?」
正解じゃなくてもいい。
まず考えてみる。
それから数字を見る。
客数を調べる。
客単価を見る。
一品単価や注文点数を見る。
そして、
「やっぱりそうだった」
なのか、
「あれ?思ってたのと違う」
なのかを確認する。
違っていたら、また考えればいい。
僕は、数字って答えを教えてもらうためだけに見るものではなく、自分の仮説が合っているか確かめるために見るものだと思っています。
売上予測から発注数を考える
ここまでやって、ようやく最初の発注の話に戻ります。
今年は去年より売上が伸びている。
平日は120%。
週末は150%。
そして、その理由もある程度分かってきた。
じゃあ、
今年の年末年始はどうなりそう?
と考えてみる。
そこで初めて、自分なりの売上予測ができます。
その予測をもとに、
「じゃあ、この商品は何個必要だろう?」
と考える。
僕は、
売上を予測する
↓
なぜその売上になるのか考える
↓
必要な商品量を考える
↓
発注数を決める
という順番の方が自然だと思っています。
「去年100個だったから、今年も100個」
ではなく、
「今年はどうなると思う?」
から始める。
それだけでも、発注の意味はずいぶん変わります。
答えを教えるより「考え方」を教えたい
年末年始の発注を終わらせるだけなら、僕が全部考えて、
「これ100個」
「こっちは150個」
と指示した方が圧倒的に早いです。
でも、それでは来年も僕がやることになります。
再来年も僕です。
イズミちゃんもマナブ君も僕より若い。
普通に考えれば、いつか世代交代するときが来ます。
二人がこれから店長としてキャリアアップしていくなら、数字を見て、自分で考えて、自分で判断することは避けて通れません。
そして二人ができるようになれば、僕の分身ができる。
僕の体が空けば、その時間を別の仕事や新しいことに使えます。
僕は、
組織は、自分が抜けてもうまく回るようにすることが、上の者の成果だと思っています。
だから時間がかかっても、答えそのものより、
「どうやって考えるのか」
を伝えたいと思っています。
僕もスーパー時代の先輩から教えてもらった
なんて偉そうに書いていますが(笑)。
僕だって最初からこんなことを知っていたわけではありません。
こういう数字の見方を教えてもらったのは、前職のスーパーで働いていた頃です。
当時の会社は、年功序列の強い会社でした。
ただ、昇格試験という制度がありました。
周りを見ると、みんながみんな真面目に試験勉強をしているわけでもない。
そこで僕は、
「これ、ちゃんと勉強したらチャンスなんじゃない?」
と思いました。
試験勉強をして、良い結果を残すようになり、その結果20代でバイヤーに抜擢してもらいました。
その頃からです。
僕が学生時代の何倍も勉強するようになったのは。
数字の見方や売上の考え方も、先輩たちから教えてもらいました。
今考えると、あの頃に先輩から教えてもらったことを、今度は僕がマナブ君やイズミちゃんに伝えているんでしょうね。
「読み通りだった!」で仕事が少し面白くなる
二人に売上予測を教え始めて、ある程度はうまくいったと思っています。
売上を予測する。
営業する。
結果を見る。
すると、
「思ったより良かった」
「思ったより悪かった」
そして、
「読み通りだった!」
と、結果を気にするようになりました。
これって結構大きな変化だと思うんです。
何も考えずに仕事をしていたら、結果はただの数字です。
でも、
「自分はこうなると思う」
と予測していたら、結果が気になる。
当たったら嬉しい。
外れたら、
「なんでだろう?」
と考える。
そして、また次の予測をする。
そういうことを繰り返しているうちに、二人とも少しずつ仕事の面白さが分かってきたんじゃないかなと思っています。
首から下でやることは「作業」、首から上でやることが「仕事」
僕は二人に、よくこんなことを言っていました。
「首から下でやることは作業。首から上でやることが仕事。」
もちろん、作業が悪いという意味ではありません。
飲食店なんて、作業の連続です。
仕込みをする。
商品を作る。
掃除をする。
発注する。
どれも必要です。
でも、
「去年100個だったから今年も100個」
で終わるのか、
「今年も本当に100個でいいの?」
と考えるのか。
売上が150%だったときに、
「やった!」
で終わるのか、
「なんで150%だったんだろう?」
と考えるのか。
自分で予測する。
結果を見る。
外れたら、また考える。
同じ仕事をしていても、自分の頭で考えるようになると、見える景色は変わってきます。
そして不思議なもので、
自分で考えた仕事の方が、ちょっと面白い。
年末年始の商品を何個発注するか。
最初は、ただそれだけの話でした。
でも僕が二人に本当に覚えてほしかったのは、売上予測の計算方法ではなかったのかもしれません。
自分で考えること。
自分なりに仮説を立てること。
数字で確かめること。
そして、また考える。
それが僕の言う、
「仕事をする」
ということなんだと思います。

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